研究背景

多くの企業が自社の商品やサービスをお客様が喜んで購入し続けてもらうために、日々試行錯誤を繰り返しながら売上アップに邁進している。
しかし、筆者の周囲を見渡すと、喜んで大勢の方に購入してもらう為に、商品を値引きや割安価格帯にて提供さえすれば、売上アップと収益が向上していくと考えている中小企業の経営者が多いと感じる。どれほど品質が素晴らしくても、購入者の欲しい欲求を刺激して、購入に至らなければ売れ上げが上がらない。値引きや割安販売は、売り上げが上がっても、粗利幅が小さければ相当の数を売り、販管費を抑えなければ利益が算出しづらくなるという問題に直面する。

感情的なマーケティング研究の多くは、購買後に対する消費者心理に関する顧客満足度やロイヤリティマーケティングに関連している。企業の収益を上げるのは、生涯顧客として1人の顧客が少しでも長くリピーター顧客として居続けることで売上貢献に寄与する。顧客エンゲージメントの高い企業は、顧客価値を刺激して高めるためには、よりよいポジティブな感情的繋がりを大切にするロイヤリティマーケティングを重要視している傾向があることを先行研究では調査されている。

感情マーケティングそのものが購買後のロイヤリティマーケティングに関係性が深く、多くの研究者が実証しているもの、肝心な購買前の研究が少ないことから、購買前の感情的な研究することの必要性を実感する。現状のスマートフォン時代になり、いつでもどこでも購買に関する情報を入手することや、必要あればすぐに、スマホからECサイトなどのWEBページにアクセスしたり、アプリによってすぐに購入・決済も可能である。従来までの実店舗型のマーケティング戦略からオンラインショップによる購買など、購買するチャネルが増えている事から、オムニチャネル時代を背景とした消費者行動を研究する必要がある。

研究目的

本研究は、人間特有の感情に関する理論分析を通した消費者行動の心理分析を目的としている。感情は、消費者行動における購買プロセスを理解する上で重要な架け橋である。そのため、消費者の購買意思決定に繋がるプロセスの全体像を先行研究より解き明かす。そこで、消費者行動の現状を把握する前提として、歴史的過程の研究論文を引用しながら近代の消費者行動の繋がりを確認する。さらに、企業活動のマーケティング戦略に係る実態調査を通して、消費者購買意図の因果関係の検証をする。購買者の感情を実態調査により、購買心理のメカニズムを解明することで、消費者心理を活用したマーケティング戦略の普及促進を目指す。

本研究の主な範囲は、消費者行動プロセス全般における「購買前・購買中・購買後」3フェーズの中で、「購買前」の研究にフォーカスする。主な研究範囲の消費者行動プロセスとして、消費者が商品やサービスに興味を感じてから実際に購入したいと思うまでの流れの購買意図までの研究である。その時間的推移の中で、商品・サービス価値評価基準の感情基準がどう変化した過程の検証をすることである。

以下に上げる先行研究を基に検証をしながら、調査研究を兼ねた実務的要素を盛り込む。カスタマージャーニーマップを活用してのデジタル・マーケティングを含めた購買に至る実証調査を含めることから、購買前のプロセスと感情を主軸とした研究を行うことから、下記に上げる各章の目的を掲げる。

  1. 消費者の購買意図に係る感情分類の先行研究を整理しレビュー【第2章】
  2. 消費者行動研究の変遷を1900年から現在に至るモデルの紹介とレビュー【第3章】
  3. デジタル化時代における消費者行動フレームワークの紹介【第4章】
  4. 感情マーケティングを応用したプロモーション動画の成功事例と失敗事例レビュー【第5章】
  5. カスタマージャーニーマップを用いた定性調査による消費者行動の実態分析【第6章】

問題提起

「人は快楽感情が動くことで無意識に消費行動をする」という説をどのような根拠を示して実証解明するのかが難題である。その感情を中心とした消費者行動研究は、その研究対象である感情の測定の難しさと、研究結果の一般化がなされにくい。感情が行動や決断に影響されやすいということは、一般的に理解されていることだが、それがなんとなく漠然としている。その感情研究の分野において、精神療法や心理カウンセリング研究が盛んであり、実用的に使う医学的分野を中心に発展を遂げている。

上原(2008)の研究でも、企業が新たにマーケティング戦略を実施していく際に、消費の顧客満足度向上や快適さなどは考慮しつつも感情の変数としての導入方法が示させられていない事を問題としている。感情マーケティングのビジネス書著者である神田(2009)や伊勢(2015)には、事例やアプローチの方法などが解説されているが、学術論文に掲載する研究者と企業家等のメカニズムに乖離があり、立証できる根拠が不足している。一方で学術論文では、先行研究の積み重ねや、社会学的視点や心理学的視点等により、多様な根拠となる事例は示しているものの、感情的にアプローチへの再現性となる手法の記載がなく、ビジネス書には根拠となるような実証研究が乏しい。感情は頻繁に取り上げられてきた思考などの理性的プロセスとは異なり、コントロールしにくいため評価が難しい (Chaudhuri,2007)。

消費者感情を理解し、理論的かつ実証的研究結果を実務で採用されづらいという指摘があるように、感情研究が実務で応用されづらいという問題がある。消費者感情を客観的に分析することに本研究の問題と難しさがある。最近の研究では、FMIR(機能的磁気共鳴映像法)という血液の流れによって脳の活性状況を分る装置があり、脳科学の進歩とともに研究されている。しかしながら、個人での研究は、FMIRなどの装置を活用するには研究費用が高額になることから現実的ではない。


感情マーケティングの定義

感情マーケティング研究者である先行研究の論文では、感情マーケティングの統一された明確な定義がされていない(上原(2008)、Chaudhuri(2007)、井上(2010)、宇津木(2007)、遠藤(2017)、岸志(2011))。そのことから、感情マーケティングの定義が統一されていない要因を推測すると、消費者心理学や行動経済学領域の1つとして「快楽消費」や「感情の理論分析」としての分野において研究が展開されていることが想定される。

そこで、筆者にて感情マーケティング「Emotional Marketing」と推測される定義を表 1の通り整理した。

発行年執筆者内容
2018Hubspot.inc, 筆者翻訳エモーショナルマーケティングとは、主に感情を利用して視聴者に気付かせ、覚え、共有し、購入することを目的としたマーケティングおよび広告の取り組みを指します。感情的なマーケティングは通常、消費者の反応を引き出すために、幸福、悲しみ、怒り、または恐れなどの単一の感情を利用します。
2015伊勢, p. 102お客様の感情を引き出して共感するコミュニケーションスキル
2015Sagon, 筆者翻訳マーケティング、創造性、テクノロジー、応用科学を通して、感情の行動パターンと行動のパターンを識別し、それをブランドに結び付けます。簡単に言うと、ブランドを感情的なニーズや願望に結び付けるプラクティスです。 
2009神田, p. 9あなたの商品を売ってくれと、お客さんが集まってくるマーケティング手法
2008上原, p. 1感情的側面に絞ったアプローチを行い、感情に関する理論分析を通した実効的なマーケティング
2002Scott. et al., 2002, p. 19エモーショナルマーケティングとは、企業が顧客をとても大切にし、配慮していると顧客に感じてもらうことによって、ロイヤルティを獲得し、顧客と永続的な関係を作ろうとするものである。
1 感情マーケティング定義

本研究においては、購買前の意思決定に影響を与える感情マーケティングを解明するため、幸福、悲しみ、怒り、または、恐れなどの単一の感情を刺激して購買することを目的とすることから、Hubspot.inc(2018)が定義した内容を採用する。

感情マーケティング研究における消費者行動プロセス行程の中では、永続的な顧客獲得のためのロイヤリティマーケティングの研究が大多数を占める。本研究は、購買前の消費者行動の研究に重点をおいていることから、この定義を採用することにした。Hubspot.incは、マーケティングオートメーションのシステムを提供するメーカー企業として、デジタル・マーケティング分野に影響を及ぼしている。後に紹介するカスタマージャーニーマップと深く関係することもあり、Hubspot.incが定義した感情を利用して視聴者に気づかせて、消費者に刺激を与えることにより購買へ繋げる仕組みとして購買前行動や感情について、先行研究を基に検証していく。

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